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大阪地方裁判所 昭和29年(行)13号 判決

京都市中京区聚楽廻り西町七〇番地

原告

北川甚吉

大阪市東区杉山町一丁目

被告

大阪国税局長

村山達雄

右指定代理人

大蔵事務官

鴨脚秀明

右当事者間の昭和二十九年(行)第一三号所得税更正決定額変更請求事件について、当裁判所は、昭和三十二年八月十七日に終結した口頭弁論に基いて、次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和二十八年十二月十四日付でなした、原告の昭和二十七年度分所得税の総所得金額を二五二、〇〇〇円とした決定のうち、二三三、〇二九円をこえる部分はこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを八分しその一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対し昭和二十八年十二月十四日付でなした、原告の昭和二十七年度分所得税の総所得金額を二五二、〇〇〇円とした決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

原告は、肩書住所において自転車修理並びに販売業を営む者であるが、所轄中京税務署に対し昭和二十七年度分所得税の所得金額を九六、八七〇円として確定申告したところ、昭和二十八年六月十一日同税務署より所得金額を二八六、〇〇〇円に更正する旨の通知をうけた。そこで同月二十二日同税務署長に対し再調査の請求をしたのであるが、右請求は同年八月一日に棄却されたので、更に同月七日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は同年十二月十四日再調査決定の全部と更正処分の一部を取消して所得金額を二五二、〇〇〇円とする旨の審査決定をなした。しかしながら被告の右決定は、原告の所得を十分調査することなく推計をもつて不当に高額に認定した違法があるから、その取消を求める。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告主張の請求原因事実中、冒頭より被告の審査決定までの事実は認めるが、その余は否認する。被告が原告の昭和二十七年度における総所得金額を二五二、〇〇〇円と審査決定した理由は以下に述べるとおりである。

(一)  原告の昭和二十七年一月一日より同年十二月末日までの間における事業による総収入金額は六四五、九三九円(その内訳は売上金五六四、六六八円、期末在庫商品七一、〇三五円、仕入戻し品及び値引一〇、二三六円)であり、総支出金は三九四、五五六円(その内訳は仕入金三一三、六三七円、期首在庫商品六五、八二〇円必要経費一五、〇九九円)であるから、右の総収入金より総支出金を差引くと原告の昭和二十七年度における事業所得額を算出でき、それは二五一、三八三円となる。そして原告には他に同年中の利子所得として一、三七八円あるから、右事業所得額に利子所得額を加えた二五二、七六一円が原告の同年度における総所得金額である。

(二)  右のうち仕入金の内訳は次のとおりである。即ち原告は同年度中に株式会社松井保商会より一六六、四三七円、有限会社大藪輪業社より八〇、二四五円、桜井伊蔵より三二、九〇五円、その他小口仕入先より一五、九六〇円相当の商品を仕入れ、中古車買入れのため一一、七〇〇円、熔接費、タイヤ直し賃、鍍金賃、サドル直し賃等の外註工費として六、三九〇円を支払つているから、仕入金は右各金額の合計三一三、六三七円である。

(三)  次に売上金の内訳及び計算の根拠は次のとおりである。

(1)  新車 新車の期首在庫数は四台でその評価格は三二、八〇〇円、仕入は十九台でその仕入原価は一六〇、八五〇円、期末在庫数は五台でその評価額は四四、三〇〇円であり、他に過年度に仕入れ本年度に返品した仕入戻し一台(一〇、〇〇〇円)があるから、期首在庫四台三二、八〇〇円に仕入十九台一六〇、八五〇円を加えたものから、期末、在庫五台四四、三〇〇円と仕入戻し一台一〇、〇〇〇円を差引くと、同年度中の新車の販売台数及び原価が算出でき、それは一七台一三九、三五〇円となる。そして新車の利益率は売上金額の三割とみるのが妥当であるから、右販売原価を基にして右の割合で計算すると、新車の売上金額は一九九、〇七一円である。

(2)  中古車 中古車の期首在庫数は二台でその評価額は四、〇〇〇円、仕入は一〇台でその仕入原価は一一、七〇〇円、期末在庫数は一台でその評価額は二、〇〇〇円であるから、期首在庫二台四、〇〇〇円に仕入一〇台一一、七〇〇円を加えたものから、期末在庫一台二、〇〇〇円を差引くと、中古車の販売台数及び仕入原価が算出でき、それは一一台一三、七〇〇円となる。しかして中古車は新車と異り転売するためには部品の取換え等若干の整備改装を必要とし、整備改装費として通常、熔接鍍金等の外註工費の八割相当額と、右金額に仕入原価を加えたのと同額程度の部分品を必要とするので、外註工費の八割相当額の五、一一二円と右五、一一二円に仕入原価一三、七〇〇円を加えた一八、八一二円相当の部分品を要したことになり、結局、整備改装費として二三、九二四円を費していることになる。従つて中古車の販売原価は、仕入原価一三、七〇〇円に整備改装費二三、九二四円を加えた三七、六二四円である。そして中古車の差益率は売上一〇〇円当り三四円五〇銭とみるのが妥当であるから、右販売原価を基にして右の割合で計算すると、中古車の売上金額は五七、四四一円である。

(3)  附属品部分品 附属品部分品の期首在庫額は二九、〇二〇円期末在庫額は二四、七三五円である。そして前記(二)の仕入合計三一三、六三七円から外註工費六、三九〇円を差引くと、新車、中古車及び附属品、部分品の仕入合計が算出でき、それは三〇七、二四七円となるから、更にそれから前記の(1)新車仕入額一六〇、八五〇円と(2)の中古車仕入額一一、七〇〇円を差引くと、附属品部分品のみの仕入額が算出でき、それは一三四、六九七円となる。そこで右仕入額一三四、六九七円に期首在庫額二九、〇二〇円を加えたものから、期末在庫額二四、七三五円を差引くと、附属品部分品の消費高が算出でき、それは一三八、九八二円となる。このうち、附属品部分品を商品としてそのまま転売するのは全体の二割が普通であるから、附属品部分品の転売原価は、右消費高の二割に相当する二七、七九六円である。そして附属品部分品の差益率は売上一〇〇円に対し二七円とみるのが妥当であるから、右転売原価を基にして右の割合で計算すると、附属品部分品の売上金額は三八、〇七六円である。

(4)  修理収入 右(3)の附属品部分品の年間消費高一三八、九八二円から、附属品部分品を商品としてそのまま転売した額二七、七九六円と(2)の中古車の整備改装に要した額一八、八一二円を差引くと、附属品部分品中修理に要した額が算出でき、それは九二、三七四円となる。また前記(二)の仕入金額中外註工費六三九〇円から(2)の中古車の整備改装に要した額五、一一二円を差引くと、外註工費中修理に要した額が算出でき、それは一、二七八円となる。そこで右附属品部分品中修理に要した額九〇、二三七円に外註工費中修理に要した額一、二七六を加えると、修理に要した原価が算出でき、それは九三、六五二円となる。ところで自転車の修理を細分すると二〇〇以上の種類があり、料金もそれぞれ異るが、大体において修理料金はそれに要する手間の多寡によつて定まり、修理材料等の原価は僅少である。そして修理の差益率は修理収入一〇〇円に対し六五円とみるのが妥当であるから、右原価を基にして右の割合で計算すると、修理収入は二六七、五八〇円である。

(5)  組立料収入 原告は株式会社松井保商会に対し昭和二十七年度中に発生した二、五〇〇円の組立料債権を有していたが昭和二十七年五月二十一日に原告の右商会に対する債務金中、二、五〇〇円と相殺しているから、組立料収入として二、五〇〇円がある。

(6)  以上の新車の売上高一九九、〇七一円、中古車の売上高五七、四四一円、附属品部分品の売上高三八、〇七六円、修理収入二六七、五八〇円、組立料収入二、五〇〇円の合計が原告の総売上高となり、それは五六四、六六八円である。

(四)  次に必要経費の内訳は次のとおりである。即ち事業税七、四四〇円、自転車税二〇〇円、組合費一、六八〇円、電灯料一、五七〇円、家賃四、二〇九円、右のうち家賃金については、原告が支払つた家賃総額は一六、八三六円であるが、賃借建物の坪数約二八、四坪に対し店舗として使用している部分は約六坪であるから、所得税法第一〇条第二項により営業用必要経費として控除すべき額は四分の一が相当と考えられるので、四、二〇九円と認定した。

(五)  次に仕入戻り品一〇、二三六円の内訳は、値引二三六円と返品一〇、〇〇〇円である。右のうち、値引は有限会社大藪輪業社との間に生じたものであり、返品は原告が過年度に株式会社松井保商会より仕入れていた完成セットドラゴン号一台を昭和二十七年十二月二十三日に同商会に返品した分である。

(六)  以上のような訳で原告の昭和二十七年度における総所得金額は前記(一)記載のとおり合計二五二、七六一円となるから、右の範囲内でなされた被告の審査決定にはなんらの違法も存しない。

原告は、被告の右主張に対し次のとおり述べた。

被告主張事実(一)のうち、期首及び期末在庫額、利子所得額がそれぞれ被告主張のとおりであることは認める。売上高、仕入高及び必要経費の点は否認する。売上高は三七五、二四三円、仕入高は二八二、八四一円、必要経費は一九、五〇〇円である。同(二)のうち、株式会社松井保商会よりの一六六、四三七円相当の商品を仕入れたとの点は否認する。その他は認める。同(三)の(1)のうち、新車の期首及び期末在庫がそれぞれ被告主張のとおりであることは認める。仕入及び利益率の点は否認する。同(2)のうち、中古車の期首及び期末在庫並びに仕入がそれぞれ被告主張のとおりであること、中古車の整備改装費として熔接鍍金等の外註工費中八割相当額が必要であることは認める。差益率の点は否認する。同(3)のうち、附属品部分品の期首及び期末在庫額がそれぞれ被告主張のとおりであること、附属品部分品を商品としてそのまま転売したものの原価が年間消費額の二割以下であることは認める。その他は否認する。同(4)の差益率の点は否認する。同(四)のうち、家賃金中必要経費として控除すべき額が四分の一相当であるとの点を除きその他は認める。

原告は営業の必要上家賃の高い表通りの家を借りているのであつて、営業しないならば裏通りの家賃の安い家でこと足りるのである。従つて現実に営業に使用する部分が少くても、右の事情を考慮して家賃金五割相当額を必要経費として控除すべきである。なお仕入原価に何割の利益を見込んで販売するかは全く商人の自由に任されていることであるから、現実の売上高を把握す

ることなく一率に差益率を適用して算出された被告の売上高の主張は不当である。

証拠として、原告は、甲第一ないし四号証の各一、二第五号証を提出し、証人桜井伊蔵、志摩栄亮の尋問を求め乙第一号証の一ないし三、第四、第五、六号証の各一ないし三、第七、八号証の各一、二の成立は認める。その余の乙号各証の成立は知らないと述べた。被告は乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証第五、六号証の各一ないし三、第七ないし九号証の各一、二、第一〇、一一号証を提出し、証人滝静夫、大藪五良、佐古田保、桜井伊蔵、松井辰一、市村福三郎の尋問を求め、甲第五号証の成立は認めるがその余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

(一)  原告が肩書住所において自転車修理並びに販売業を営む者であること、原告が所轄中京税務署に対し昭和二十七年度分所得税の所得金額を九六、八七〇円として確定申告したところ、昭和二十八年六月十一日同税務署より所得金額を二八六、〇〇〇円に更正する旨の通知をうけたこと、そこで原告は同月二十二日同税務署長に対し再調査の請求をしたのであるが、右請求は同年八月一日に棄却されたので、更に同月七日被告に対し審査の請求をしたこと、これに対し被告は同年十二月十四日再調査決定の全部と更正処分の一部を取消して所得金額を二五二、〇〇〇円とする旨の審査決定をしたことは当事者間に争がなく、原告が法定の期間内に本訴を提起したことは記録上明白である。そこで右審査決定の適否について判断する。

(二)  仕入金

原告が昭和二十七年度中に有限会社大藪輪業社より八〇、二四五円、桜井伊蔵より三二、九〇五円、その他小口仕入先より一五、九六〇円相当の商品を仕入れ、中古車買入のため一一、七〇〇円、熔接費、タイヤ直し賃、鍍金賃、サドル直し賃等の外註工費として六、三九〇円を支払つていることは当事者間に争がなく、証人滝静夫の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証によると、原告が同年度中に株式会社松井保商会より一六六、四三七円相当の商品(新車完成セット、部分品、附属品等)を仕入れている事実が認められる。右認定に反する甲第二号証の二及び同第四号証の一、二は証人滝静夫の証言及び右乙第二号証に照し信用しがたく他に右認定を左右する証拠はない。従つて原告の同年度における仕入総額は、右各金額の合計額であること計算上明白な三一三、六三七円である。

(三)  売上金

(1)  新車 新車の期首在庫が四台でその評価額が三二、八〇〇円であること、同期末在庫が五台でその評価額が四四、三〇〇円であることは当事者間に争がなく、証人滝静夫の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第二号証、証人大藪五良の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二(一部)を総合すると、原告が昭和二十七年度に仕入れた新車は合計十九台でその仕入原価は一六〇、四五〇円である事実が認められ、右乙第二号証によると、原告が過年度に仕入れた新車一台(一〇、〇〇〇円)を本年度に返品している事実が認められる、右証定に反する甲第二号証の二は当裁判所の信用しがたいところであり、他に右認定を左右する証拠はない。

被告は、右期首在庫四台三二、八〇〇円に仕入れ十九台一六〇、四五〇円を加えたものから、期末在庫五台四四、三〇〇円と仕入戻し品一台一〇、〇〇〇円を差引くと、同年度中の販売台数と原価が算出できると主張するが、販売台数十七台については、もとよりそのとおりであるけれども、販売原価については、証人桜井伊蔵の証言によると、八塚自転車の完成セットにはタイヤ、チューブが含まれていないこと、新車の小売価格はタイヤ、チューブ付の完成車としての価格であること、従つて小売店が八塚自転車を組立てて販売する場合には、タイヤチユーブを別途購入する必要のあることが認められるから、右被告主張の方法により算出した完成セットの仕入金額に八塚自転車のタイヤ、チューブの仕入に要した金額を加える必要があることになる。そして前記甲第二号証の二によると、原告が八塚自転車の完成セットを三台分購入している事実が認められ、成立に争のない乙第十一号証によると、期首在庫商品中に八塚自転車がないことが認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証の二によると、期末在庫商品中に八塚自転車一台がある事実が認められるから、結局、原告は八塚自転車二台を販売したことになり、証人桜井伊蔵の証言によると、昭和二十七年当時八塚自転車用のタイヤ、チューブは一、〇〇〇円ないし一、一〇〇円位の卸価格であつたと認められるので、その平均値である一、〇五〇円に販売台数二台を乗じた二、一〇〇円のタイヤ、チューブ代を要していると認めるのが相当である。

そこで期首在庫三二、八〇〇円に仕入一六〇、四五〇円を加えたものから、期末在庫四四、三〇〇円と仕入戻し品一〇、〇〇〇円を差引くと、完成セットの仕入原価が一三八、九五〇円と算出できるから、それに前記八塚自転車のタイヤ、チューブ代二、一〇〇円を加えると、新車の販売原価が算出でき、それは一四一、〇五〇円と認められる。

ところで被告は新車販売(小売)の利益率は売上金額の三割である旨主張するのでこの点につき考えてみる。

証人桜井伊蔵の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第十号証によると、八塚号自転車(実用車)の小売価格が一五、五〇〇円、タイヤ、チューブなしの完成セットの卸価格が八、三〇〇円ないし八、五〇〇円、タイヤ、チューブの卸価格が一、〇〇〇円ないし一、一〇〇円であつた事実が認められ、右小売価格から右完成セットとタイヤ、チューブの卸価格を差し引いたものを小売価格で除すと、売上に対する利益率が算出でき、それが三割以上になることが認められるけれども、他面、証人松井辰一の証言によると、新車の販売利益は原価の三割を目標にしているけれども実際上は値切り等のため定価表どおりの価格で販売できず、それを下廻る場合のあることが認められ、成立に争のない乙第七号証の一、二によると、大阪国税局では昭和二十七年度における自転車小売の販売差益を売上一〇〇円当り二七円(二割七分)とみている事実が認められ、証人佐古田保の証言によれば、右販売差益は新車及び中古車の販売並びに部分品等の転売を一括して計算したものであること、新車の差益より中古車の差益の方が高いことが認められるから、新車のみの差益は右二七円を下廻るとみるのが正確であると解せられる。従つて新車小売の利益を売上の三割とする被告の主張は過当に失し採用できない。ところで右に述べたように、大阪国税局では昭和二十七年度における自転車小売の販売差益を売上一〇〇円当り二七円とみているのであるが、証人佐古田保の証言によると、右差益率は大正年間より毎年算出されているものであつて、ほぼ中庸を得たものであるとの事実が認められるから、特段の事情の認められない本件についても、右差益率を適用して売上高を算出すべきであると考えられるけれども、右に述べたように、右差益率は新車のみについて算定されたものではなく、中古車や部分品等を包含した上で算定されているのであるから、右差益率を適用して新車のみの売上高を算出することは不正確であり、中古車及び部分品等の販売原価を認定した上で、それらと新車の販売原価との合算額につき右差益を適用して売上金を算定すべきであると考える。

(2)  中古車 中古車の期首在庫は二台でその評価額が四、〇〇〇円であること、同仕入は十台でその仕入原価が一一、七〇〇円であること、同期末在庫が一台でその評価額が二、〇〇〇円であることは当事者間に争がなく、後記認定の中古車販売原価に照すと、右期首及び期末在庫の評価はいずれも整備改装前の仕入原価と解せられるから、右期首在庫二台四、〇〇〇円に仕入十台一一、七〇〇円を加えたものから、期末在庫一台二、〇〇〇円を差引くと、中古車の販売台数及び仕入原価が算出でき、それが十一台一三、七〇〇円になることは計算上明白である。

そして中古車を転売するためには部品の取換等の整備改装を必要とし、整備改装費として、熔接鍍金等の外註工費六、三九〇円の内八割相当額が必要であることは当事者間に争がなく、右の外部分品として、外註工費の八割相当額に仕入原価を加えたのと同額程度のものを必要とすることは原告において明らかに争わないし弁論の全趣旨によつても争つていると認められないので自白したものとみなすから、原告は中古車の整備改装費として、右外註工費の八割相当額の五、一一二円と右五、一一二円に仕入原価一三、七〇〇円を加えた一八、八一二円とを加算した二三、九二四円を費していると認められる。従つて中古車の販売原価は、前記仕入原価一三、七〇〇円に右整備改装費二三、九二四円を加えた三七、六二四円と認める。

ところで被告は、中古車の販売差益は売上一〇〇円当り三四円五〇銭である旨主張し、成立に争のない乙第八号証の一、二によると、中古車小売の販売差益が被告主張のとおりであることが認められるけれども、右は昭和二十八年度の差益率であつて昭和二十七年度の所得額の確定には適切でないのみならず、仮に証人佐古田保の証言するように、昭和二十七年度の中古車の差益よりも昭和二十八年度のそれの方が低下しているとしても、右(1)で述べたように、昭和二十七年度の自転車小売の差益売上一〇〇円当り二七円の中には、中古車の差益も含まれているのであつて、中古車の差益の方が新車の差益よりも高いということを考え合すと、中古車のみにつき翌年度の差益率を適用することは、新車につき不当に高い利益を推計する結果となるばかりか昭和二十七年度の所得につき同年度の差益率を適用して所得を推計された他の同業者との公平上も適当でないと考えられるから新車につき右(1)で述べたのと同様、中古車についても中古車のみの売上を算定することは不正確であり、新車、部分品等の原価と合算した上で売上金を算定すべきである。

(3)  附属品部分品 附属品部分品の期首在庫が二九、〇二〇円であること、同期末在庫が二四、七三五円であることは当事者間に争がなく、(二)の仕入合計三一三、六三七円から、(二)の外註工費六、三九〇円と、(三)の(1)新車仕入額一六〇、四五〇円と、同(2)の中古車仕入一一、七〇〇円とを差引くと、附属品部分品の仕入額が算出でき、それが一三五、〇九七円であることは計算上明白である。そこで右仕入額一三五、〇九七円に期首在庫二九、〇二〇円を加えたものから期末在庫二四、七三五円を差引くと、附属品、部分品の消費高は一三九、三八二円と認められる。

そして証人市村福三郎の証言によると、附属品部分品を商品そのものとして転売するのはその年間消費額の二割と認められるから、右年間消費額一三九、三八二円の二割である二七、八七六円が附属品部分品の転売原価と認められる。

ところで被告は附属品部分品の転売差益は売上一〇〇円当り二七円と主張するのであるが、右(1)及び(2)で述べたように、附属品部分品のみにつき右差益で売上高を算出するのは不正確であつて、新車及び中古車を含めた販売原価を基にして右差益で売上高を算出すべきである。

そこで右(1)の新車の販売原価一四一、〇五〇円に右(2)の中古車の販売原価三七、六二四円と附属品部分品の販販原価二七、八七六円とを加えると、新車、中古車及び附属品部分品の合計販売原価が算出でき、それは二〇六、五五〇円と認められる。

そして新車、中古車及び附属品部分品の差益は、右に述べたように売上一〇〇円当り二七円と認められるからその割合で計算すると別紙計算表(一)のとおり二八二、九四五円となるから、右金額をもつて新車、中古車及び附属品部分品の合計売上高と認める。

(4)  修理収入 前記(二)の外註工費六、三九〇円から右(2)の中古車の整備改装に要した五、一一二円を差引くと、外註工費中修理に要した額が算出できそれは一、二七八円となる。また右(3)の附属品部分品の消費高一三九、三八二円から、商品としてそのまま転売した額二七、八七六円と右(2)の中古車の整備改装に要した額一八、八一二円と、八塚自転車の組立に要したタイヤ、チューブの価格三台分三、一五〇円(右(1)で述べたように八塚自転車の販売台数は二台であるが、前記甲第三号証の二によると、期末在庫の八塚自転車の評価は九、七〇〇円になつており、仕入原価に照すと右は完成車(製品)としての評価と認められるから、タイヤ、チューブ一台分がそれに使用されていると認める。)とを差引くと、附属品部分品中修理に要した額が算出できそれは八九、五四四円となる。そこで外註工費中修理に要した額一、二七八円と附属品部分品中修理に要した額八九、五四四円とを加えると、修理に要した材料の原価が算出でき、それは九〇、八二二円と認められる。

そして成立に争のない乙第七号証の一、二によると、自転車修理の差益は収入一〇〇円当り六五円と認められ、他に右認定に反する証拠はないから、右の割合で計算すると、別紙計算表(二)のとおり二五九、四九一円となるから、右金額を修理による収入と認める。

(5)  組立料収入 証人滝静夫の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証によると、原告が株式会社松井保商会に対し二、五〇〇円の組立料債権を有していた事実が認められ、右組立料債権が昭和二十七年度中に発生したとの点については、原告は明らかに争わないしまた弁論の全趣旨によつても争つているものと認められないので、これを自白したものとみなし、組立料収入を二、五〇〇円と認める。

(6)  以上の新車、中古車及び附属品部分品の売上高二八二、九四五円、修理収入二五九、四九一円、組立料収入二、五〇〇円の合計五四四、九三六円を原告の総売上高と認める。右認定に反する甲第一号証の一、二は前記各認定事実に照して信用しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

(四)  必要経費

必要経費中、事業税七、四四〇円、自転車税二〇〇円、組合費一、六八〇円、電灯料一、五七〇円は当事者間に争がない。

原告はその支払つた家賃総額一六、八三六円(この点も当事者間に争がない)の五割を必要経費と認むべきであると主張し被告はその二割五分で足りると主張するのであるが、成立に争のない甲第五号証によると、原告が賃借している建物の総坪数二七、五坪に対し店舗部分は四、八坪である事実が認められるから、原告主張のような事情を考慮しても、その二割五分を必要経費として認めれば足りると考える。従つて必要経費は、右当事者間に争のない一〇、八九〇円に家賃金の二割五分に相当する四、二〇九円を加えた一五、〇九九円と認められる。

(五)  仕入戻し品及び値引

証人滝静夫の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証によると、原告は株式会社松井保商会より過年度に仕入れたドラゴン号完成車一台(一〇、〇〇〇円)を、昭和二十七年十二月二十三日に同商会に返品している事実が認められ、証人大藪五良の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証によると原告が有限会社大藪輪業社にその買掛金を支払うに際して合計二三六円の債務を免除(値引)して貰つている事実が認められる。従つて仕入戻り及び値引として一〇、二三六円が認められる。

(六)  期首及び期末在庫商品額がそれぞれ被告主張のとおりであることは当事者間に争がない。

(七)  以上を総合すると、原告の昭和二十七年一月一日より同年十二月末日までの間における事業による総収入金は六二六、二〇七円(その内訳は売上金五四四、九三六円、期末在庫商品額七一、〇三五円、仕入戻し品及び値引一〇、二三六円)と認められ、総支出金は三九四、五五六円(その内訳は仕入金三一三、六三七円、期首在庫商品額六五、八二〇円、必要経費一五、〇九九円)と認められるから、右の総収入金より総支出金を差引けば原告の昭和二十七年度における事業所得金額が算出でき、それは二三一、六五一円と認められる。

そして他に同年度中の利子所得として一、三七八円あることは当事者間に争がないから、右事業所得に利子所得を加えた二三三、〇二九円が原告の同年度中における総所得金額と認められる。

(八)  そうすると、被告のなした本件審査決定中右二三三、〇二九円をこえる部分は違法であるから、原告の本訴請求はその限度で理由があり、これを認容することにするが、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩口守夫 裁判官 倉橋良寿 裁判官 岡次郎)

計算表

(一) 新車、中古車、附属品部分品

販売原価 差益 売上高

206,550円÷(1-0.27)=282,945円

(二) 修理

修理原価 差益 収入高

90,822円÷(1-0.65)=259,491円

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